こんにちは、リブセンスでデータサイエンティストをしている北原です。今回は対応分析の利用事例として、紹介型マッチングアプリknewの結婚観の特徴を分析した結果を紹介します。対応分析は2カテゴリーの項目間の関係性を視覚的に把握する方法です。主に探索的分析で使われます。なお、対応分析については別記事にて紹介します。
knewは結婚につながる真剣な恋愛を目的としたアプリなので、ユーザーの結婚願望には注意を払っています。そのため、会員登録時の質問で関連情報を取得してマッチングに活用しています。また、筆者は関わっていないものの、社外に委託して結婚観のアンケート調査も行っています。今回の分析は、このアンケート調査と同様に、簡易的な現状把握を目的としています。
分析
目的
今後の施策に活かせる仮説構築の参考となる情報を得るために、結婚願望別の特徴を簡易的に把握することが分析目的です。検証は目的としていません。
方法
カテゴリカルデータを扱うことができる探索的分析手法として対応分析を使います。結婚願望は選択式回答で収集しているのでカテゴリカルデータです。結婚願望との関連性を調べる対象も今回はカテゴリカルデータに限定します。簡易的な現状把握を目的としているので3つ以上のカテゴリを同時に分析することもしません。仮説検証を目的としていないので、検証的分析ではなく探索的分析に優れた手法を利用します。
対応分析はR言語のFactoMineRパッケージとfactoextraパッケージを利用して実行します。
分析結果は比較的解釈しやすい結果のみを公開します。今回は探索的分析なので、試行した分析パターンが多い一方で、解釈困難な結果も多いためです。
対象
分析対象となるknewユーザーの条件は以下の通りです。
2021年12月以降に登録したユーザー
年齢が25〜32歳
本人確認済み
プレリリース時と現在とではユーザー層が異なっているので、プレリリース時のユーザーを除外するため2021年12月以降に登録したユーザーを対象としています。今回は年齢層による層別化をしないことや、knewのターゲットユーザー層を考慮し、いわゆる結婚適齢期の年齢に対象を絞っています。不正登録者の影響を除外するため本人確認済みのユーザーのみ対象にしています。なお、該当ユーザー数等の事業状況を推測するのに有効な情報については、今回は非公開とします。
結婚願望の質問文と回答は以下の通りです。
- 結婚への考え方は?
- すぐにでもしたい
- 2~3年のうちにしたい
- 良い人がいればしたい
- まだ結婚は考えていない
「すぐにでもしたい」と「2~3年のうちにしたい」はいずれも結婚願望が明確なものの、前者は焦っている状況、後者はそこまで焦っているわけではなく計画的に進められる状況と考えられます。「良い人がいればしたい」は結婚願望がないわけではないが、それほど強くもない層と考えられます。
分析結果
相手に望む結婚観
まず、対応分析が有効に機能しているかを確認する意図もあり、相手に望む結婚観(結婚願望)との関連性を示します。常識的に考えて、自分の結婚願望が強ければ相手も強いことを望むだろうし、弱ければ相手も弱いことを望むことが予想されます。
相手に望む結婚観は次のような質問と回答で収集しています。
- 結婚への考え方はどんな人がいいですか?
- こだわらない
- すぐにでもしたい人
- 2~3年のうちにしたい人
- 良い人がいればしたい人
- まだ結婚は考えていない人
結婚願望(赤)と相手に望む結婚願望(青)との関連を示す2軸プロットと寄与率は男女別に次の通りです。
Table: 結婚願望と相手に希望する結婚願望の寄与率(女性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.22 | 72.64 | 72.64 |
Dim.2 | 0.07 | 22.87 | 95.51 |
Dim.3 | 0.01 | 4.49 | 100.00 |
Table: 結婚願望と相手に希望する結婚願望の寄与率(男性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.17 | 68.93 | 68.93 |
Dim.2 | 0.06 | 23.79 | 92.72 |
Dim.3 | 0.02 | 7.28 | 100.00 |
結果から確認できることは次の通りです。
男女に大きな違いは見られない
相手に自分と同じ結婚願望の人を望んでいる
「まだ結婚は考えていない」は他の回答と大きく異なっている
「良い人がいればしたい」は「こだわらない」に近い
「すぐにでもしたい人」は「すぐにでもしたい」と「2〜3年のうちにしたい」のいずれにも近い
全般的に、予想通りの結果と言えます。
収入
経済基盤の安定は結婚生活に影響するので、結婚願望と収入との関連性が考えられます。収入は数値データとして取得しているので、男女別に次のように離散化しています。
- 女性
- 0、200万以下、200〜400万、400〜600万、600万超
- 男性
- 0、200万以下、200〜400万、400〜600万、600〜800万、800万超
結婚願望(赤)と収入(青)との関連を示す2軸プロットと寄与率は男女別に次の通りです。
Table: 結婚願望と年収の寄与率(女性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.04 | 90.24 | 90.24 |
Dim.2 | 0.00 | 9.62 | 99.86 |
Dim.3 | 0.00 | 0.14 | 100.00 |
Table: 結婚願望と年収の寄与率(男性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.04 | 90.48 | 90.48 |
Dim.2 | 0.00 | 8.50 | 98.99 |
Dim.3 | 0.00 | 1.01 | 100.00 |
結果から確認できることは次の通りです。
- 女性
- 年収0は結婚願望なし
- 600万円超は結婚願望低め
- 年収200〜400万円は結婚願望高め
- 男性
- 年収0だと結婚願望なし
- 年収200〜400万と400〜600万は結婚願望が高め
- 年収600万円超になると結婚願望が薄まる
男女とも年収がないと結婚には消極的になる傾向があるようです。現実的に結婚は難しいという判断なのかもしれません。また、男女とも、平均的な年収レンジの層は結婚願望が高いものの、一定以上の年収があると結婚を急がなくなるようです。男女とも結婚による世帯収入の増加を期待しているのかもしれません。
相手に望む学歴
学歴は生涯年収に関連していることが知られているため、結婚願望と学歴との関連性も考えられます。
相手に望む学歴は次のような質問と回答で収集しています。
- お相手に学歴は求めますか?
- こだわらない
- 高等学校卒
- 短期大学卒
- 専門学校卒
- 高等専門学校卒
- 大学卒
- 大学院卒
結婚願望(赤)と相手に望む学歴(青)との関連を示す2軸プロットと寄与率は男女別に次の通りです。
Table: 結婚願望と相手に望む学歴の寄与率(女性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.02 | 93.74 | 93.74 |
Dim.2 | 0.00 | 3.71 | 97.45 |
Dim.3 | 0.00 | 2.55 | 100.00 |
Table: 結婚願望と相手に望む学歴の寄与率(男性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.02 | 96.55 | 96.55 |
Dim.2 | 0.00 | 2.45 | 99.00 |
Dim.3 | 0.00 | 1.00 | 100.00 |
結果から確認できることは次の通りです。
- 女性
- 結婚願望が強い女性は大学卒、大学院卒を希望
- 結婚願望が弱い女性はこだわりがない
- 男性
- 「2〜3年のうちにしたい」男性は高卒以外を希望
結婚を考えている女性は高学歴男性を希望しているが、そうでない場合は学歴には寛容のようです。焦ってはいないが計画的に結婚を考えている男性は、ある程度高学歴の女性を希望しているようです。逆に「すぐにでもしたい」男性はこだわりがないようです。
学歴によって相手に望む学歴に違いがあると予想されます。結婚願望との関連性ではないものの、補足として、学歴と相手に望む学歴の関連性を調べた結果は次のようになりました。自分の学歴(赤)と相手に望む学歴(青)との関連を示す2軸プロットと寄与率は男女別に次の通りです。
Table: 学歴と相手に望む学歴の寄与率(女性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.22 | 92.96 | 92.96 |
Dim.2 | 0.01 | 5.67 | 98.63 |
Dim.3 | 0.00 | 0.97 | 99.60 |
Dim.4 | 0.00 | 0.20 | 99.80 |
Dim.5 | 0.00 | 0.18 | 99.99 |
Dim.6 | 0.00 | 0.01 | 100.00 |
Table: 学歴と相手に望む学歴の寄与率(男性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.2 | 96.73 | 96.73 |
Dim.2 | 0.0 | 1.82 | 98.55 |
Dim.3 | 0.0 | 1.20 | 99.74 |
Dim.4 | 0.0 | 0.19 | 99.94 |
Dim.5 | 0.0 | 0.06 | 99.99 |
Dim.6 | 0.0 | 0.01 | 100.00 |
結果から確認できることは次の通りです。
- 女性
- 自分と同等の学歴の男性を希望
- 男性
- 大卒、大学院卒は高卒以外を希望
- 大卒、大学院卒以外はこだわりがない
女性は経済的な面だけでなく、考え方や教育水準についても自分と同等の男性を望んでいるようです。男性も大卒以上だと一定以上の教育水準の相手を望んでいるものの、女性ほど強いこだわりはないようです。
子供についての考え方
子供が欲しい男女は結婚願望が強いと予想されます。
子供についての考え方は次のような質問と回答で収集しています。
- 子どもについての考え方は?
- こだわっていない
- 子どもが欲しい
- 子どもは欲しくない
- まだわからない
- 相手と相談して決めたい
結婚願望(赤)と子供についての考え方(青)との関連を示す2軸プロットと寄与率は男女別に次の通りです。
Table: 結婚願望と子供の寄与率(女性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.16 | 77.99 | 77.99 |
Dim.2 | 0.05 | 21.99 | 99.98 |
Dim.3 | 0.00 | 0.02 | 100.00 |
Table: 結婚願望と子供の寄与率(男性)
次元 | 固有値 | 寄与率 | 累積寄与率 |
---|---|---|---|
Dim.1 | 0.10 | 82.50 | 82.5 |
Dim.2 | 0.02 | 17.41 | 99.9 |
Dim.3 | 0.00 | 0.10 | 100.0 |
結果から確認できることは次の通りです。
- 男女とも結婚願望が強いと子供が欲しい
- 女性は結婚願望がないと子供は欲しくない
- 男性も結婚願望がないと子供は欲しくない傾向があるが、「まだわからない」にも近い
結婚願望の強さは子供を望むかに強く影響を受けているようです。
趣味等
先に結論を述べてしまうと、結婚願望と関連性の高い趣味等はありませんでした。条件等による先入観を排除するため、現在(2022年12月)のknewではマッチング相手の情報がほとんど閲覧できない仕様となっています。しかし、趣味等の情報は例外的に相手に表示されるので、何らかの関連性が期待されましたが不発でした。
犬や猫との関連性も確認できませんでした。信憑性は不確かなものの、ペットを飼うと結婚意欲がなくなるといった話があるので、愛玩動物との関連性を期待したのですが、男女とも明瞭な関連性は見られませんでした。
料理との関連性も見られませんでした。時代遅れな気もしますが、結婚願望の強い女性が料理をアピール材料に使うことがありうるのではと考えましたが、特に関連性は見られませんでした。
まとめ
今回は対応分析の利用事例として弊社マッチングアプリknewのユーザーの結婚願望の特徴を分析しました。直感的にわかりやすい形でデータを可視化し、仮説構築に使えそうな結果が得られることがわかると思います。今回関連性がありそうなことがわかったのは以下のものです。
- 年収が高くなると結婚願望が薄まる可能性がある
- 結婚願望の強い女性は大卒以上を希望
- 結婚願望の強さは子供が望むかで決まる
ただし、探索的分析であるため結果の信頼性は高くありません。必要に応じて深掘り分析や検証的分析がもとめられることに注意が必要です。