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UXデザインが総論賛成、各論疑問になる理由と、プロジェクト設計で意識したい3つの条件【中編】

 テクノロジカルマーケティング部 データマーケティンググループにてUXリサーチャーをしている佐々木と申します。普段は、UXデザイン(以下、UXDと略記)に関するプロジェクトを事業部横断で支援する業務についております。

 前回の私のブログでは、前編として「UXデザインが総論賛成、各論疑問になる理由」と「プロジェク設計で意識したい3つの条件の<その1>サービス・ドミナント・ロジックを中核とするサービスかどうか」について述べさせて頂きました。 analytics.livesense.co.jp

今回は、中編として<その2>潜在ニーズを探る必要性の有無、について述べさせて頂きます。

前編でも述べさせて頂きましたがUXDのプロジェクト設計で意識したい3つの条件は

  • <その1>サービス・ドミナント・ロジックを中核とするサービスかどうか
  • <その2>潜在ニーズを探る必要性の有無
  • <その3>改善・改良を目的とした既存事業・既存サービス

になります。今回は3条件の中の2つ目です。

4.1 潜在ニーズ有無による特徴

 プロジェクト設計で意識したい2つ目の条件として、「潜在ニーズを探る必要の有無」を挙げさせて頂きました。 ここでは、まず、潜在ニーズの有無による新規ソリューション案(事業案)の特徴について考えてみます。

 一般的に「顕在ニーズ」を対象にしたソリューション案(事業案)は、購買欲求が高く自明な顕在ニーズを対象にしているので早期に市場が立ち上がることが期待できます。しかしながら、デメリットとして、競合が多く、差別化を作り難く、価格競争になりがちな傾向があります。

 一方、「潜在ニーズ」を対象にしたソリューション案(事業案)は、近未来における社会やユーザーの変化に対応したサービスにより差別化を作り易く、先行利益を得やすいです。しかしながら、デメリットとして、サービス市場が立ち上がるまで安定した需要が見込めず事業成長の不確実性が高くなる傾向があります。

 この様な特徴を考慮して「潜在ニーズを探る必要の有無」により、そのソリューション案(事業案)の種を探す工数や、説得材料を揃えて検証する工数を大きく変えて設計した方が良いと考えてます。図4.1.1に示したデザインプロセスにおけるダブルダイヤモンドで例えると、前後のフェーズで共に設計を変える必要があるのです。

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図4.1.1 デザインプロセスにおけるダブルダイヤモンド

4.2「問題の発見・収束」における設計の違い

 ダブルダイヤモンドの前半である「問題の発見・収束」のステップについて、新規事業や新規サービスを検討する場合について考えます。対象となる問題が「顕在ニーズ」「潜在ニーズ」のどちらなのか?と、その新規性が「機能」もしくは「体験価値」の場合で考えてみます。

4.2.1 「顕在ニーズ」の場合

 差別化要素となる新規性が機能に有り、その機能が解決するのが「顕在ニーズ」の場合、どの様な問題(顕在ニーズ)を対象にするのかが自明なのでダブルダイヤモンドの前半である「問題の発見・収束」フェーズに掛ける工数は少なくすることができます。

 潜在ニーズを探る必要が余り無いのは、検討しているサービスの事業領域において世の中のサービスに不満が多く存在し”なんとなく不満なサービス”が世の中に溢れている状況になっている時、とも言えます。

 例えば図4.2.1 の様に「事業やサービス領域において、既存技術や新規技術で解決できる顕在ニーズが一定規模以上で存在している」状況などを挙げることができます。 ※図4.2.1 の丸角四角は、個別の顕在ニーズを表し、その大きさはニーズを持つ人の規模を表現しています。青塗りの丸角四角は、すでにソリューションが世の中に存在しているニーズ、白塗りの丸角四角は、まだソリューションが世の中に存在していないニーズ、を表します。

 高度成長時代に技術イノベーションにより産業成長が続いていた時は、【Ⅰ】【Ⅱ】を繰り返していたとも言えます。ですので比較的に技術的な発展による新興サービスが該当することが多いです。また、既存事業等で解決したい問題が明らかになっており、その解決案の目処がたっている時も該当すると言えます。

 この様な状況下では、従来の「定量的なマーケットリサーチの判断基準」で判断することができます。ダブルダイヤモンドの左側でユーザーのニーズについて深いリサーチをかける必要は余りありません。定量的に把握可能な自明な顕在ニーズに対して、素早く製品・サービス開発を行い市場に投入した方が事業成果を得やすいことが多いからです。

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図4.2.1 潜在ニーズを探る必要が余り無い状況

4.2.2 「潜在ニーズ」の場合

 差別化要素となる新規性が機能で有るものの、機能により解決される一定規模感の有る顕在ニーズが見当たらない場合や、機能に差別化する要素が乏しく差別化要素となる新規性を体験価値に求める場合は、潜在ニーズの探索が必要な場合が多いです。また、自明になっていない問題(潜在ニーズ)を対象にするので「問題の発見・収束」フェーズに掛ける工数を多く設計する必要が有ります。

 潜在ニーズを探る必要のあるのは、事業環境面では検討しているサービスの事業領域において世の中のサービスに大きな不満は無く、”なんとなく良いサービス”が世の中に溢れている状況になっている時、とも言えます。

 例えば図4.2.2の【III】【Ⅳ】の様に「事業やサービス領域において、既存技術で解決できるニーズはほぼソリューションが存在しており」、【III】「既存技術で解決できる未解決の顕在的なニーズは少数意見のみ」の状況や、【Ⅳ】は【III】に加えて「新規技術で解決できる未解決の顕在ニーズも少数意見のみ」の状況を挙げることができます。

 この様な状況は、成熟期の事業領域に多く、従来のマーケットリサーチの判断基準(一定数量のある未解決なニーズを対象にサービス開発を行う)だけでは、新規事業の芽を見つけ出すことは非常に困難です。この時、様々なアプローチ方法がありますが、その一つに潜在ニーズを探る手段があります。

 潜在ニーズを探す場合、ダブルダイヤモンドの左側で、"今まで、顕在ニーズとして少数の人しか必要としていないと思われていたけど、実は多くの人が求めていた潜在ニーズ"を探しだすことを目的とします。

 ここで述べる潜在ニーズとは、厳密な定義とは少しずれてしまうかもしれませんが、ウォンツとニーズにおける”ウォンツ”、ジョブ理論における”本質的に片付けたいジョブ”、UXDにおける”本質的に求めている未発見の体験価値”、等と重なる概念として考えております。

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図4.2.2 潜在ニーズを探る必要のある状況

4.3 「解決案の発見・収束」における設計の違い

 次にダブルダイヤモンドの後半である「解決案の発見・収束」のステップにおいて考えてみます。「解決案の発見・収束」のステップでは、前半で対象とした「顕在ニーズ」「潜在ニーズ」のどちらの解決策を探索するのかにより必要な工数は異なります。

 「顕在ニーズ」を対象にした解決策は、顕在ニーズを対象にしているので想定価格や購入意向率を客観的に評価することができます。よって評価と検証がしやすいことから工数を少なくすることができます。

 しかしながら「潜在ニーズ」を対象にした解決策は、まだ無消費の市場であることが多いため客観的な評価はありえません。解決策はステップを経た検証が必要です。またその説得材料を揃えるにも不確実性が高く限られた材料になるので時間が掛かります。数ターンのアジャイルなプロトタイプの検証を通して、想定価格や購入意向率等を、その「世界観」や「体験価値を実感できるストーリー」のプロトタイプを用いて検証し徐々に確度を上げていく必要があります。 またその際は、不確実性が高い検証になりますので、有力な一つの「潜在ニーズを対象にした解決策」に絞るよりも、複数案を対象に検証す進め、その中から選別するプロセスを推奨します。

 更に最終的な検証はサービスのリリース後も継続されます。将来起こるであろう「社会の行動や価値感の変容」と共にサービスが世の中に浸透することになるからです。ですので、今回のプロジェクトで、どこまでの範囲を検証対象とするのか?を事前に確認して設計する必要が有ります。

 また複数の候補案が有り、「顕在ニーズ」「潜在ニーズ」が混在している場合は特に注意が必要です。同じ設計で同時並行的に進めようとすると「潜在ニーズ」を対象にした検証が時間不足で不十分になりがちで、中途半端な結果となり最終候補案として見送られてしまうことが多いからです。その必要性により十分な工数を確保して検証することを推奨します。

 この様に、事業としての成果を出すためには、一見同じ様なテーマのリサーチプロジェクトでも、「潜在ニーズ探索の必要性有無」により、大きく設計を変える必要があると考えてます。

5. 中編のまとめ

 以上、UXDのプロジェクトを選定する時に意識する3条件の2つ目である <その2>潜在ニーズを探る必要性の有無、について実践時に心掛けてきたことを中心にまとめてみました。

 次回は、後編として最後の条件である

<その3>改善・改良を目的とした既存事業・既存サービス

について述べさせて頂きます。